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岐阜地方裁判所 昭和49年(行ウ)8号 判決 1981年7月01日

原告 株式会社中島彩巧商社

被告 岐阜北税務署長

代理人 岡崎真喜次 西村重隆 高崎武義 亀山忠男 後藤勝 ほか五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四七年五月二六日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書を以てなした原告に対する昭和四五年七月一日から同四六年六月三〇日までの事業年度分の法人税に関する更正及び加算税の賦課決定処分を取消す。

2  被告が昭和五〇年六月二六日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書を以てなした原告に対する同四六年七月一日から同四九年六月三〇日までの三事業年度分の法人税に関する更正及び加算税の各賦課決定処分をいずれも取消す。

3  被告が昭和五三年八月二八日付法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書を以てなした原告に対する同四九年七月一日から同五〇年六月三〇日までの事業年度分の法人税額等に関する更正及び加算税の各賦課決定処分を取消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二請求の原因

一  原告は、繊維類の販売及び加工、新旧美術品及び貴金属の売買などを業とする会社であるが、被告に対し、昭和四五年七月一日から同五〇年六月三〇日までの五事業年度分の法人税についてそれぞれ青色申告による確定申告書を提出したが、右各申告書に記載の所得金額及び法人税額は次のとおりであつた。

1  昭和四五年七月一日から同四六年六月三〇日までの事業年度(以下第一係争年度という。)分

所得金額 一四七一万三八二三円

法人税額  三三三万四五〇〇円

2  昭和四六年七月一日から同四七年六月三〇日までの事業年度(以下第二係争年度という。)分

所得金額 二五九〇万八〇〇〇円

法人税額  六九九万四二六五円

3  昭和四七年七月一日から同四八年六月三〇日までの事業年度(以下第三係争年度という。)分

所得金額 八二六五万七一八一円

法人税額 二九六〇万五一三八円

4  昭和四八年七月一日から同四九年六月三〇日までの事業年度(以下第四係争年度という。)分

所得金額 八六五九万一八八〇円

法人税額 三三二七万三四四〇円

5  昭和四九年七月一日から同五〇年六月三〇日までの事業年度(以下第五係争年度という。)分

所得金額 九一八五万三〇六九円

法人税額 三三四七万七四〇〇円

二  これに対し被告は、第一係争年度分については昭和四七年五月二六日付の、第二ないし第四係争年度分については同五〇年六月二六日付の、第五係争年度分については同五三年八月二八日付の各「法人税額等の更正通知書及び加算税の賦課決定通知書」を以て別紙1記載の如き摘要と金額を掲げた更正処分及び賦課決定処分をなし(以下においては順に、本件第一決定処分、第二決定処分、第三決定処分という。)、この旨を原告に通知した。

三  原告は、右各決定処分を不服として、本件第一決定処分については昭和四七年六月一四日被告に対し異議申立をしたところ同年九月一一日右申立を棄却する旨の決定を受け、更に同年一〇月五日国税不服審判所長に審査請求をしたところ同四九年七月二六日右請求を棄却する旨の裁決を受けた。また本件第二決定処分についても同五〇年七月二九日国税不服審判所長に対し審査請求をしたがその後三か月を経過する未だその裁決がない。

更に、本件第三決定処分について同五三年九月六日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同年一二月六日これを棄却する旨の裁決があつた。

四  しかしながら、本件各決定処分は、原告が他に類例をみない特殊な営業形態であるという実情を看過し、取締役の役員報酬を不当に低く算定してなされた違法なものであるから、いずれも取消を免れない。

よつて原告は被告に対し請求の趣旨記載の如く本件各決定処分の取消を求める。

第三請求の原因に対する答弁

一  請求原因一ないし三はすべて認める。

二  同四は争う。

第四被告の主張

本件各決定処分はいずれも適法である。以下その理由を述べる。

一  原告は、本件各決定処分の理由のうち、被告が原告の申告にかかる取締役に対する役員報酬額が不相当に高額であるとしてその一部を損金の額に算入しないとした点についてのみこれを違法とする。しかしながら、右の損金への一部不算入は、以下のとおり適法である。

まず、本件各係争年度における原告が申告した各取締役に対する役員報酬として損金の額に算入した金額並びにこれに対し被告が認めた損金算入報酬額及び過大報酬として否認した金額とを対照すれば、別紙2のとおりである。(以下においては取締役の名は与三一、一弘、登茂子と略す。)

二  被告は、法人税法(昭和四〇年法律第三四号、以下法と略す。)三四条及び同条に基づくところの法人税法施行令(昭和四〇年政令第九七号、以下令と略す。)六九条に則り、本件各決定処分を行なつたものである。

すなわち、法二一条は、法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の課税標準は各事業年度の所得の金額とすると定め、法二二条一項は、法人の各事業年度の所得の金額は当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とすると定めている。しかして、右の損金の額については、同条三項に列記されているほか同項にいう「別段の定め」として法第四款「損金の額の計算」において多くの損金不算入に関する規定が設けられている。

そして本件で問題となつている役員報酬については、法三四条一項が、「法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」と規定し、右規定に基づき令六九条は、<1>形式的基準すなわち法人が役員報酬の支給限度額を定めている場合にその限度額をこえていないかどうか(同条二号)、<2>実質的基準すなわちその役員の職務の内容等に照らし相当であるかどうか(同条一号)によつて不相当に高額かどうかを判定すべきものとしている。そして右<1><2>のいずれの基準によつても過大報酬の額が算出される場合には、いずれか多い金額が損金の額に算入されないこととなる(同条本文かつこ書)。

法及び令が右の規定を置いた理由は以下のとおりと考えられる。

すなわち、一般に商法上取締役の報酬の額は商法二六九条により定款又は株主総会の決議をもつて決定されるが、商法上かかる規制がなされているのは取締役による報酬のお手盛りの弊害を防止し、会社の利益を擁護する趣旨と解される。したがつて、定款等で決定された役員報酬の額は当該会社の役員の職務執行行為の対価として一応相当な額と推認し得る。これに対し、右により決定された報酬額をこえて支給された金額は商法上、当該会社の役員の職務執行の対価として相当な報酬とはいえないから、税法上においても過大な報酬となる。

また閉鎖的な性格の強い同族会社(原告は、代表取締役与三一及びその同居親族が発行株式の全部を保有し、取締役も与三一、与三一の長男一弘、及び一弘の妻登茂子によつて占められている典型的な同族会社である。)にあつては、株主総会等で決定される役員の報酬額は必ずしもその職務執行の対価として相当であるとは限らない。なぜなら、右のような同族会社においては取締役に多額の報酬を支払い、税務の計算上これを損金に計上することによつて租税負担を回避することが比較的容易であるため、できる限り役員報酬を拡大し、損金算入額を多くするように配慮することが当然に予想されるからである。(もつとも法三四条、令六九条の規定が同族会社についてのみ適用されるものでないことは明文上明らかである。)

三  そこで、原告の本件各係争年度における役員報酬の額を右の各基準により判断すれば、以下のとおりとなる。

1  形式的基準による判断

原告の本件各係争年度における株主総会決議による役員報酬限度額は係争年度順に、一九〇〇万円、三〇〇〇万円、三〇〇〇万円、四五〇〇万円、五〇〇〇万円であり、これに対し、原告が損金に算入した役員報酬の合計額は別紙2の当該欄<ア>記載のとおりである。したがつて、第一係争年度においては二八〇万円が限度額をこえており、その余の係争年度においては限度額内であることが明らかである。

2  実質的基準による判断

令六九条一号によれば、役員の職務の対価として相当であるかどうかは、役員の職務内容、その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給状況、同種同規模法人の役員報酬等を総合勘案して判断されるべきものとされている。

そこで右の各点について検討すれば、以下のとおりである。

(一) 役員の職務状況について

各係争年度を通じて、原告の役員構成は代表取締役与三一、専務取締役一弘、取締役登茂子となつており、その昭和四六年六月三〇日現在の職務の状況は別紙3のとおりである。

これを少しく具体的に述べれば、与三一は、第一係争年度当時すでに七一才に達し老令であるところから、その対内的及び対外的な職務執行のほとんど全部を息子の一弘に委ねており、実質的には代表取締役の職務を遂行しているとはいえない。

一弘は、第一係争年度当時三三才であるが、父与三一のあとを引き継ぎ実質的に原告の運営に関与していることがうかがえる。更に原告は、美術品等の製造という特殊技能を要する作業を主たる目的とするところから、一弘はその製造過程等に直接関与し、工員の指導等にもあたつていて、通常の業務を執行する使用人をも兼ねたような立場にあると認められるが、その点を除けば一般会社の代表者と同様会社業務を全般的に指導監督しているにすぎない。

一弘の妻である登茂子は、第一係争年度当時中学生、小学生、幼稚園児の三人の子を有し、通常の家事業務及び子供らの面倒を見なければならないところからすれば、これらの仕事にほとんどの時間を割かれ、会社の取締役としての業務については時たま手伝うことはあるとしても、本来の取締役の職務を遂行することは一般的に不可能である。

(二) 収益及び使用人に対する給料の支給状況について

(1) 収益状況

原告の本件各係争年度における売上金額及び当期純利益は、別紙4記載のとおりである。

別紙4の表から明らかなとおり、原告の売上金額は連続して対前年比で一二〇パーセントをこえる伸びを示しており、これに伴つて当期純利益も大幅に増加し、その収益は資本金(三七〇万円)の二〇倍余り(第五係争年度)に達している。

(2) 使用人に対する給料の支給状況

本件各係争年度における使用人の最高給与額及び総支給金額等を表にすれば次のとおりである。

(金額単位千円)

順号

区分

係争年度

最高給与額

総支給金額

使用人数(人)

平均給与額

氏名

金額

1

第一係争年度

奥村孝夫

七六五

二八、九八四

六八

四二六

2

第二 〃

九二八

四八、二三八

九一

五三〇

3

第三 〃

一、一三五

六〇、二九四

九四

六四一

4

第四 〃

一、五五七

八九、八〇五

一〇四

八六三

5

第五 〃

二、一六一

一一八、一一七

一一七

一、〇一〇

(注) 「平均給与額」欄の金額は「総支給金額」欄の金額を「使用人数」欄の人数で除して算出したものである。

右の表と別紙2の表によつて使用人に対する給与総額と役員三名に対する報酬総額の対比及び使用人一人当りの平均給与額と一人の役員に対する報酬額との対比(役員報酬額の最も低い登茂子ですら使用人の平均給与額の八倍、七倍、六倍、六倍、六倍であり、最も高額の一弘においては二三倍、二五倍、二二倍、二〇倍、二二倍にも達する。)をみるとき、その職務の違いを考慮しても役員報酬額が極めて多額であることがうかがわれる。

また岐阜県統計書によれば、岐阜県下における「産業大中分類(その他製造業)常用労働者の男性一人平均給与額」は第一ないし第五係争年度においてそれぞれ八二万一〇〇〇円、九九万七〇〇〇円、一二〇万九〇〇〇円、一六五万円、一九五万一〇〇〇円であるから、原告の使用人に対する平均給与額自体極めて低いというべきである。

次に使用人に対して支払われた給与総額、当期純利益、及び役員報酬額等を比較対照すれば、次のとおりとなる。

(金額単位千円)

順号

区分

係争年度

<ア> 当期利益

内訳

<オ>

<ウ>+<エ>/<ア>

<カ>

<ウ>/<ウ>+<エ>

<キ>

<ウ>/<ア>-<エ>

<ク>

<ウ>/<ア>

<ケ>

<エ>/<ア>

当期純利益

<イ>

役員報酬額

<ウ>

給与総額

<エ>

1

第一係争年度

五八、八四八

八、〇六四

二一、八〇〇

二八、九八四

八六・二

四二・九

七二・九

二七・〇

四九・二

2

第二 〃

九九、三一九

二四、八三一

二六、二五〇

四八、二三八

七四・九

三五・二

五一・三

二六・四

四八・五

3

第三 〃

一二七、一九四

三九、九〇〇

二七、〇〇〇

六〇、二九四

六八・六

三〇・九

四〇・三

二一・二

四七・四

4

第四 〃

一六九、七三六

四六、三三一

三三、六〇〇

八九、八〇五

七二・七

二七・二

四二・〇

一九・七

五二・九

5

第五 〃

二三六、七八九

七六、七七二

四一、九〇〇

一一八、一一七

六七・五

二六・一

三五・三

一七・六

四九・八

(注)1 「当期利益<ア>」は、使用人及び役員等の人的組織を構成するものに対して要する費用(<ウ>及び<エ>、「人件費」という。)を支払わないとして計算した場合の利益金額をいい、<イ>、<ウ>及び<エ>の合計額である。

2 「<オ>」欄は、「当期利益<ア>」のうち、人件費として支払われた金額の割合(百分比)を示す。

3  「<カ>」欄は、人件費のうち、役員報酬として支払われた金額の割合(百分比)を示す。

4  「<キ>」欄は、当期利益から使用人に対する給与総額を差引いた後の利益のうち、役員報酬として支払われた金額の割合(百分比)を示す。

5  「<ク>」欄は、当期利益に占める役員報酬額の割合(百分比)を示す。

6  「<ケ>」欄は、当期利益に占める使用人の給与総額の割合(百分比)を示す。

右の表によれば、本件各係争年度において、当期利益の六七・五ないし八六・二パーセントに相当する金額がいわゆる人件費として支払われ(「<オ>」欄参照)、そのうちの二六・一ないし四二・九パーセントに相当する金額が役員報酬として支払われ(「<カ>」欄参照)、また、当期利益から使用人に対する給与総額を控除した残額のうち三五・三ないし七二・九パーセントに相当する金額が役員報酬として支払われている(「<キ>」欄参照)。

右によれば、原告においては役員報酬が利益に対して占める割合が極めて高いことがわかる。

(三) 同種の事業を営み、規模の類似する法人(以下類似法人という。)の役員報酬について

(1) 令六九条一号にいう「同種の事業を営む法人」は、業種業態が全く同一であることを要するものではなく役員報酬の比較という観点から合理的に解されるべきである。けだし「同種の事業」の範囲を厳密に解するときは、業種業態が特異で他に同一の業種、業態を認め得ない法人については、特異な業種であるというだけの理由で、いかに高額な役員報酬を支給しようと法三四条により否認できないこととなり、極めて不合理な結果に至るからである。

(2) そこで被告は、原告の業種目を次のとおり把握して類似法人を選定した。

すなわち、原告は本件各係争年度の確定申告書において事業種目を「美術品の製造販売」と記載して申告しており、これに被告が調査によつて知り得た兼業種目をあわせ、被告は原告の業種目を「美術品の製造、販売及び額縁の製造販売並びに書画材料の販売業」と認定したものである。そのうえで被告は、別紙5の基準のもとに原告の類似法人を名古屋国税局管内をはじめとして広く東京、大阪両国税局管内から選定した。

(3) 右によつて選定した類似法人における役員報酬の支給状況は別紙6ないし10のとおりであり、本件各係争年度における類似法人の売上金額と代表取締役及び代表取締役を除く最高報酬を受給している男性取締役(及び第一係争年度については女性取締役)に対する役員報酬額との関連を図示すれば別紙11の1ないし3、12の1、2、13の1、2、14の1、2、15の1、2のとおりとなり、原告の代表取締役らが受給した役員報酬(図の◎が原告の申告額)が類似法人のそれと比較していずれも不相当に高額であることは明らかである。

四  以上によれば原告の役員報酬が不相当に高額であることは明らかであるので、被告は、本来ならば類似法人における役員報酬の平均額をこえる額を過大な役員報酬額として損金に不算入とすべきところ、取締役らの職務内容、原告への貢献度及び原告の収益状況等を総合勘案して極端に高額と認められる別紙2<ウ>欄記載の金額にとどめて損金不算入としたものである。

したがつて被告の各決定処分には何ら違法はない。

第五原告の反論

一  被告の更正内容の不当性

別紙16は本件各係争年度における原告の売上高、申告による役員報酬額、更正による役員報酬額をもとに、各取締役の原告の売上に対する貢献度の指数を求めこれを一覧表にしたものである。すなわち、この表における<C>/<A>を一〇〇〇倍した数値が、いわば被告が認めた各取締役の原告の売上に対する貢献度を表わす指数であり、<B>/<A>を一〇〇〇倍した数値が原告が認めた右の指数である。

この表によれば被告の認定がいかに一貫性を欠き場当たり的であるかが明らかである。すなわち被告は一弘の貢献度を年々下げる一方、登茂子の貢献度を上げており(但し登茂子の報酬は第一第二係争年度のみ)、また第一、第二係争年度においてのみ一弘と与三一の貢献度を同等としているのである。しかも被告は右の理由について何ら説明するところがない。

二  実質基準による判断の不当性

1  本件の場合推計課税は許されない。すなわち推計課税をするには種々の要件が必要であるが、本件においてはこれらの要件は全くみたされていない。

2  被告は原告の各取締役の職務内容を十分に把握していないし把握しようともせず不当である。

原告は、肉筆掛軸の製造販売部門においては他の追随を許さず、市場を独占しているのであるが、それは何よりも取締役らが画家の人材発掘養成から始まり、作品の開発選定とこれに伴う技術指導、生産工程の改良研究と合理化、販売体制の改革その他会社業務の全般に亘つて特別の能力を発揮していることに基因するものであり、これを他の側面からみると他の法人と異なり取締役らは常時宿直制をとつたうえ、全部の会社業務を直接遂行し、従業員はすべてその都度取締役の指示により動くという形になつているのである。したがつて個々の取締役の業務量は肉体的限界に追るものである。ことに一弘の場合、同人の存在即会社(原告)であり、その貢献の割合は他にとつて代わる者がいない以上、計数評価が出来ない程度に高いといわざるを得ない。原告が驚異ともいうべき売上げ記録の更新を続けているという企業秘密を解く鍵はまさに一弘の持つ優れた経営能力にあるといつてよく、この事実を無視して原告の事業活動の実態を把握することは出来ない。

しかるに被告はこのような原告役員の職務内容を全く知らず、否説明しても耳を傾けようとせずに、役員報酬を決定したものである。

3  被告は、原告の使用人に対する給与の支払状況を検討するについて岐阜県下における「産業大中分類常用労働者の男性一人平均給与額」をひきあいに出しているが、この手法は全く科学性がなく合理的というには程遠い。何故ならば、原告の従業員のうちその約半数は一八才あるいは一九才であり、しかもその余の半数のうちの一番多数を占める年令層は五〇才以上である。これに対し被告がひきあいに出した岐阜県の資料はこの年令構成が明らかでないが、おそらく一〇才代とか五〇才以上の年令の人達の平均給与額ではあるまい。そうであれば原告の従業員の給与が右に比して低くとも異とするには足りないからである。

4  類似法人との比較における不当性

(一) 役員報酬が不相当に高額か否かを定める実質的基準の考え方としては、まず何よりも当該法人の業種、規模、所在地、収益、使用人に対する給料の支給状況及びその取締役の業務内容等事業活動の実態に即して客観的に定めることが基本であり、類似法人との比較はあくまで便法であつて、他に認定手段がない場合に限り一応の参考となるにすぎないと解すべきである。

しかるに被告は右の原則を無視しているばかりでなく、その方法においても次のような誤りがある。

(二) 被告は原告の業種を十分に把握していない。また把握しようともしない。

被告は原告の業種を単に美術品の製造販売業ととらえているにすぎない。

しかし原告はその営業種目中「肉筆掛軸の製造販売」部門が九六ないし九七パーセントの利益をあげている会社であり、年々右部門が占める利益の割合は上昇している。したがつて原告は他にも額縁の製造販売、絵画入り額縁、画材、掛軸の附属品及び原材料の販売等も行つているが売上、利益率の点で前記「肉筆掛軸の製造販売」部門とは全く比較にならないほど僅少である。しかるに被告はこの点を無視して原告の業種を認定しており、明らかに不当である。

(三) また同種の事業を営む法人であるか否かは厳格に判断すべきである。さもなければ比較の意味がない。

ところが被告は、「同種の事業を営む法人」かどうかは余り厳格に解する必要がないとし、確定申告書に「美術品製造販売業」と書いてあれば全部比較の対象となるかのように主張する。

しかしながら、「美術品製造販売業」の中には額縁だけを製造販売している会社もあればパネル写真を大量に製造販売している会社もあり、カレンダーを製造販売している会社が美術品製造販売業と称していることもあるから、「美術品製造販売業」の記載を根拠にすべてを類似法人として比較の対象とすることは明らかに不当である。

原告と比較するのであれば、原告の前記実態に照らし少くとも「日本画(掛軸)を大量に製造販売している会社」を探し出して比較の対象とすべきである。

(四) 被告の主張する類似法人がはたして被告主張のままに存在するか否か、また被告主張の内容のとおり確定申告書に記載しているか否かは原告にとつて不明であり、しかもこれらについて原告には反対尋問をする機会すら与えられていない。

しかし反対尋問ができない資料による比較的対照が不当であることは次の判例によつても明らかである。すなわち、「他の納税者の秘密を保持する義務があることの理由をもつて……(原告に)……訴訟上の不利益を甘受させねばならない理由を導き出すことが許されないからである。被告税務署長としては、右申告書を書証として提出しようとする場合には、すべからく申告者の承諾を得られるように努むべきであり、しかもなお承諾が得られないときは、その申告書を書証として提出することを断念せざるを得ないものと考える。」(大阪地裁、昭和四七年一〇月三一日判決、判例時報六八七号、四五頁以下)したがつて被告が掲げた類似法人の役員の中で、原告の役員のような特殊な才能を発揮した者がいれば、被告は具体的な事実を摘示すべきである。

また本件の比較資料は本訴提起以降収集されたものであり、本件各処分当時には存在しなかつたものであるから、これをもつて比較の資料とすることは不当である。

三  要するに被告は役員報酬を定める基準を示さないのみか、原告の実態について全く把握せず、いつてみれば一種の勘に頼つて処分を行なつているものであり、その違法不当は明らかである。

第六原告の反論に対する被告の再反論

一  原告は、原告が役員に対して支給した役員報酬額がその役員の職務に対する対価として相当であるとの前提に立つて売上高に対する役員報酬額の比を役員の売上高に対する貢献度指数であると主張するが、本件各係争年度における争点はまさしくその役員報酬額の適否にあるのであつて、被告は原告の主張する貢献度指数からのみ役員報酬を求めているのではない。会社と委任関係にある役員の会社に対する貢献度は会社のあらゆる面に現われるのであり、例えば、売上高が伸びなくても、内部の体質を改善することにより、経費を節減し利益が大巾に伸びるなど単に売上高のみに貢献度が現われるものではなく、まして、貢献度を数値で求めることは不可能である。

したがつて典型的な同族会社である原告が認定した右の貢献度指数は到底客観性をもちえない。

役員に対して支給した報酬が相当か否かは被告主張のような客観的算定額との対比により決せられるべきであり、被告の算定が一貫性を欠き場当り的であるとの非難はあたらない。

二  被告は本件において推計課税をしているのではない。

また原告の主張が、法三四条(令六九条)の過大な役員報酬の損金不算入の規定は法一三一条及び所得税法一五六条に規定する推計課税の規定と同様であり、過大な役員報酬を否認するについても推計課税の要件と同様の要件を必要とするとの主張と理解しても右主張は以下のとおり失当である。

すなわち法一三一条又は所得税法一五六条のいわゆる推計課税とは、課税標準たる所得金額を事業の規模等から推計することを許容する規定であるが、これに対し法三四条は法人の役員報酬のうち不相当に高額な部分につき損金に算入することを否認できるとの規定であつて、課税標準を推計するものではない。そして令六九条一項一号は右の不相当に高額な金額の算出方法を定めるものであつて、同号に掲げられている収益及び使用人に対する給料の支給状況等は右金額を算定するについて参考とすべき間接的な事情を示しているにすぎないのである。

三  原告は、被告が原告の業態を美術品製造販売業と認識していることがあたかも不当であるかのごとく非難する。

しかし、既述のとおり原告はその確定申告書に美術品製造販売と記載し、また原告自身自己の事業種目が美術品製造販売業であることを自認しているのであり、更に被告の調査によれば、原告の業態の具体的内容は画布、掛軸、日本画、洋画、額縁などの美術品の製造販売業というにすぎず、これは従来の課税実績に基づきその業種を類型化している業種別管理簿の分類と異ならない。そしてこのような類型化された業種について全国の税務署にその実績が把握されているところから、被告において東京、大阪及び名古屋の各国税局管内の税務署についてその回報を求め類似法人を選出したものである。

ところが原告は、被告が主張する類似法人のなかには原告と業態を同じくする法人は一つも含まれていないと主張する。

しかし、令六九条一号に規定する「同種の事業を営む法人」は業種、業態が全く同一であることを要しないことは論ずるまでもなく、また推計課税(法一三一条、所得税法一五六条)において問題とされている同業者の類似性とも異なり、単に不相当に高額な報酬であるか否かを判断する一事情として述べられているにすぎないことからすれば、「同種」の事業規模が「類似」するか否かの判断も推計課税ほど厳格である必要はなく、報酬の比較という観点から合理的に解すべきである。

そして、原告主張のような、その作業工程の細部とか事業者の主観によつてその事業形態が左右され得るものではないから、役員報酬が過大であるかどうかを判断する場合に、右のような点につき類似性を問題とする必要はない。

四  また原告は、被告が役員の職務内容を把握していないと主張するが、被告は、原告の役員の職務内容については十分調査しているところであつて、右調査の結果明らかになつたことのうち、特に一般的な会社と異なる点は、一弘が通常の業務を執行する社員としての性格を有している点のみであり、右の点は美術品製造販売業にはその性格上多かれ少なかれ存するのであつて、原告のみに特有なものであるとして特段とりあげ類似性をも否定する要素となり得るものではない。

五  原告は、大阪地裁、昭和四七年一〇月三一日判決を挙示し、被告の推計資料は、原告が反対尋問できないものであるから、推計に合理性がないと主張する。

しかしながら、過大な役員報酬の損金不算入の規定が推計課税の規定とは、全く異なるものであることは、すでに述べたところである。したがつて、被告が役員の過大報酬の否認を行うについて提出した証拠資料は、たんに、法三四条の規定の不相当な金額を算定するについての間接的な証拠にすぎず、そのものが、推計課税の要件のように、その合理性の要件とはなつていないのであるから、原告の主張は失当である。

なお、推計課税をなすについて、同業者の氏名を秘匿して提出した証拠についても、推計の合理性を認めた裁判例は数多くあり、原告の挙示する裁判例も、控訴審において、「この文書は、公務員である税務署長が、国税局長あてに提出した公文書の一部であつて、税務署長が、申告者より真正に作成されたものとして受理していることが認められるので、証拠たりうるものであつて、形式的証拠力がないとはいえず、裁判所はその内容の信憑性を判断すれば足りる。また、原告が申告者について反対尋問ができないのは、税務署長がその守秘義務を守つているためであつてやむをえない。」として破棄され、右控訴審においての裁判例が現在の裁判例の通説的見解である。

また原告は、本件比較資料は本訴提起以後に作成されたもので原処分当時存在していなかつたと主張するが、本件において証拠として提出した資料は、原処分をなすにつき収集した資料を基礎に確認の意味で作成されたものであつて、原処分時に右資料が存在しなかつたとの主張はあたらない。

第七証拠 <略>

理由

一  請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件各決定処分が違法かどうかについて判断すべきところ、原告は、被告が原告の申告にかかる取締役に対する役員報酬額の一部を損金の額に算入しないとした点のみについて違法であると主張するので、以下この点について検討する。(なお証拠の引用のうち書証についてはすべて成立に争いがないので、以下においてはその旨の記載は略す。)

1  各係争年度における損金の額に算入すべき役員報酬額として原告が申告した額及び被告がこれを不相当に高額であるとして法三四条により更正した額が別紙2記載のとおりであることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  ところで法三四条一項は、法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分として政令で定める金額は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入しないと定め、また法三五条一項は、法人が役員に対して支給する賞与の額は法人の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入しないと定めている。右規定の趣旨は、要するに、役員の職務行為に対する相当額の報酬は、当該法人が経済活動を行うために必要な経費として、これを損金に算入するが、職務行為の対価として相当な額をこえる額はたとえ報酬という名目であろうと実質的には利益処分である賞与に該当するものとしてこれを損金に算入しないというにあると解される。

つぎに、役員の職務行為に対する適正な対価の定め方については、令六九条が法三四条一項の規定をうけて次の二つの判断基準を定めている。

すなわち、第一は定款の規定又は株主総会等の決議により定められている役員報酬の限度額の範囲内か否かという点であり(同条二号、以下形式的基準とする)、第二は当該役員の職務の内容、その法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められるか否かという点である(同条一号、以下実質的基準とする)。そして、右の二つの基準によつて不相当に高額であるとされた金額のうちいずれか多い金額が損金に算入されないこととなる(同条本文かつこ書)。

3  そこでまず形式的基準に基づいて判断する。

<証拠略>によれば、原告の株主総会の決議において役員に対し報酬として支給しうる限度額(総額)を、各係争年度順に一九〇〇万円、三〇〇〇万円、三〇〇〇万円、四五〇〇万円、五〇〇〇万円と定めていることが認められる。

しかるに、原告が損金に算入する額として申告した役員報酬額の総額は、別紙2記載のとおり係争年度順に二一八〇万円、二六二五万円、二七〇〇万円、三三六〇万円、四一九〇万円であるから、第一係争年度については、原告が損金に算入すべき役員報酬額の総額が株主総会の決議にかかる限度額を二八〇万円超過していることになる。

したがつてこの二八〇万円は形式的基準からみた不相当に高額な部分として損金に算入すべきでない金額である。

4  次に実質的基準に基づいて判断する。

前記のように、実質的基準について令六九条一号は、<イ>当該役員の職務の内容、<ロ>その法人の収益及び使用人に対する給料の支給状況、<ハ>類似法人の役員に対する報酬の支給の状況、<ニ>その他の事情を勘案すべき旨を定めている。

原告はこの点について、実質的基準による適正報酬額は、まず何よりもその会社の業種、規模、所在地、収益、使用人に対する給料の支払状況及びその取締役等の業務内容など事業活動の実態に即して客観的に定められるべきであつて、業種、規模等の類似する他の法人における役員報酬額をもつて適正額とする扱いは便法にすぎず、他に認定の方法がない場合に限り一応の参考とする手段にすぎないと主張する。

しかしながら令六九条一号が類似法人における役員報酬額を、原告主張のように単に他に認定の方法がない場合の一応の参考にすぎないとみているものでないことは文理上明らかである。のみならず、役員報酬額が客観的に適正か否かを判断するについては、類似法人における額との比較は不可欠というべきである。けだし、当該役員の職務の内容やその法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況等の事情のみによつては、役員報酬として適正な額を客観的に決定することは著しく困難であり、いきおいその判断は恣意に流れやすくなることが自明だからである。

そこで以下令六九条一号掲記の各事情について検討する。

(一)  役員の職務の内容

係争年度全部を通じ、原告の取締役の地位に与三一、一弘及び登茂子の三名が就いていたこと並びに昭和四六年六月三〇日現在の役員の職務の状況等が別紙3記載のとおりであることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。そして<証拠略>によれば、与三一は代表取締役の地位にあるとはいうものの高齢のため代表取締役のなすべき対内的、対外的な職務執行のほとんどすべてを息子の一弘に委ねており、実質的には代表取締役としての職務を遂行しているとはいえないこと、一弘は、形式上は代表取締役ではないが、実質的には代表取締役として会社業務の全般的指揮監督をなしており、かつ美術品の製造等の営業活動に直接関与し、その遂行にあたつていること、登茂子は、家事をも担当している関係で取締役の職務に専念しているわけではないこと、右三名の右のような職務の状況は本件各係争年度のみならず、少くともその前事業年度においても同様であること、以上の事実が認められる。

原告は、特に一弘の特別の能力及び肉体的限界に迫る業務量を強調するが、特別の能力自体は職務の内容の構成要素でないことは明らかであり、また肉体的限界に迫る業務量というも、その判断は極めて主観的であり、何をもつて肉体的限界というのかはなはだあいまいである。

したがつて、被告のなした原告の取締役の職務内容の把握は何ら不当ではない。

(二)  法人の収益及び使用人に対する給料の支給状況

(1) <証拠略>によれば、原告の収益状況が別紙4記載のとおりであると認められる。

一方、<証拠略>によつて認められる、第一係争年度の前年の事業年度すなわち昭和四四年七月一日から昭和四五年六月三〇日までの事業年度における原告の役員報酬額が四二〇万円(与三一)、六三〇万円(一弘)、二二二万円(登茂子)であつた事実と、二の1に認定の各係争年度における申告役員報酬額(別紙2)をもとに、右役員報酬額の対前年比率を算定すれば次のとおりとなる。(小数点以下四捨五入した百分比)

年度    与三一 一弘  登茂子 〔売上額〕

第一係争年度 一九三 一六二 一五八  一三一

第二 〃   一〇四 一三五 一一七  一三九

第三 〃   一〇〇 一〇五 一〇二  一五一

第四 〃   一二六 一二三 一二六  一二三

第五 〃   一二三 一二七 一二三  一二二

右によれば、第一係争年度において、売上金額の伸び率に比較して役員報酬額の伸び率が異常に高いことが明らかである。

(2) 次に使用人に対する給料の支給状況について検討する。

<証拠略>によつて認められる、各係争年度における<イ>従業員に対する総支給金額(決算報告書中の経常損益の部欄II販売費及び一般管理費の給料手当に記載の額)、及び<ロ>使用人数(法人の事業概況説明書中の期末従業員の状況欄記載の人数。但し第五係争年度については月末工員数の平均値(小数点以下切捨)に期末従業員の状況欄の販売員、事務員の数を合計したもの)、と右数値をもとに算出される<ハ>従業員一人あたりの平均給与額(<イ>/<ロ>、円未満切捨)は次のとおりである。

年度       <イ>     <ロ>    <ハ>

第一係争年度 二八九八万四四九四円  八七人  三三万三一五五円

第二〃    四八二三万八六六六円 一〇二人  四七万二九二八円

第三〃    六〇二九万四六四二円 一〇四人  五七万九七五六円

第四〃    八九八〇万五〇四一円 一一三人  七九万四七三四円

第五〃  一億一八一一万七〇九九円 一一七人 一〇〇万九五四七円

ところで、<証拠略>によつて認められる岐阜県下における産業大中分類(その他製造業)常用労働者の男性一人平均給与額及び全平均給与額は次のとおりであるから、これと比較して原告の使用人の受給額が著しく低額であることは明白である。

年度    男性一人平均給与額   全平均給与額

第一係争年度  八二万一〇〇〇円  六四万一八八〇円

第二 〃    九九万七〇〇〇円  七八万二七七〇円

第三 〃   一二〇万九〇〇〇円   九五万七八二円

第四 〃       一六五万円 一三二万九二三三円

第五 〃   一九五万一〇〇〇円 一六四万二八三八円

また原告の営業態様に卸売、小売業が含まれる点に着目し、右の産業大中分類のうち卸売業、小売業とその他製造業との比較を試みると、卸売業、小売業の平均給与額がその他製造業の平均給与額を上回つていることが明らかとなるから、原告の従業員の給与が著しく低額であることが更に顕著となる。

原告は、原告の使用人に対する支給給与額につき、従業員の年令構成の特殊性を考慮すると低額ときめつけることは不当であると主張する。

しかし、<証拠略>によれば、原告の従業員の奥村孝夫(昭和一五年生、昭和三七年採用)は原告の従業員中最も高い給与の支払を受けているものであるが右奥村の昭和四六年における給与合計額は八五万八〇〇〇円であると認められるところ、<証拠略>によれば昭和四六年賃金構造基本統計調査報告の第五巻岐阜県の製造業男子労働者(三〇歳ないし三四歳)の給与合計額は一〇二万一九〇〇円であつて、年齢、勤続年数を考慮しても原告従業員の給与が低いとの結論が導き出されるから、原告の主張は根拠がない。

(三)  類似法人における役員報酬の支給状況

(1) <証拠略>によれば、被告が各係争年度を通じ原告の業種を美術品の製造販売及び額縁の製造販売並びに書画材料の販売業ととらえ、これと同種の営業を営みかつ規模の類似する(その基準は別紙5記載の選定基準のとおり)法人に対する課税事績を東京、大阪、名古屋、岐阜の各税務署に求めたことが認められる。

この点について原告は、原告の営業種目のうちの九六ないし九七パーセントが肉筆掛軸の製造販売によつて占められているにもかかわらず、被告はこの点を看過し漫然と原告の業種を美術品の製造販売等と認定したものであつて、この業種認定は不当であると主張する。

しかしながら、<証拠略>によれば、原告は掛軸の製造販売のほか額縁の製造販売、絵画、美術品、画材、原材料の販売、画廊の経営を行なつていることが認められ、<証拠略>によれば、原告自身の作成にかかる各係争年度の確定申告書の事業種目欄には「美術品の製造販売」と記載されており、右係争年度を通じ、法人の事業概況説明書にも、その事業の業種の内容欄に「画布、表装諸材料、掛軸、日本画、洋画その他美術品額縁附属品の製造及び販売」と記載されていることが認められるのである。そうしてみれば、被告が原告の業種を美術品の製造販売及び額縁の製造販売並びに書画材料の販売業ととらえたことに誤りはないというべきであり、仮に、原告主張のとおり肉筆掛軸の製造販売がその売上の大部分を占めているとしても、営業種目の認定を左右する事情にはあたらない。

(2) 次に被告が前記(1)の課税事績照会に対する回報書を<証拠略>として提出していることにつき、原告はまず、右の各税務署長作成の回報書はその内容につき原告において確認することができず反対尋問をなしえないからこれに基づく比較対照は不当であると主張する。

原告の右主張が意味するところは必ずしも明白ではないが、原告は前記回報書の成立自体を争つてはいないので、結局右回報書の証明力を否定する趣旨と解される。しかしながら、右各回報書並びに弁論の全趣旨によれば、各税務署長から提出された各回報は、当該税務署の署員が別紙5の選定基準に該当する法人を選別し、その課税事績等を所定の書式に従つて記入し、他の署員がこれを確認したうえ作成されたものであることが認められ、その信用性を疑わせる事情も別段見当らないから、右回報は十分な証明力を有するということができる。

更に原告は、右各回報書は本訴提起後に作成されたものであるから証拠として用いるのは不当であると非難するが、<証拠略>によれば、被告において本件各決定処分をなすにあたり同様の調査を行なつていたことが認められるばかりでなく、課税庁は更正処分等の取消訴訟において、処分理由の正当性を立証するにつき、その基礎となつた資料とそれに基づく認識判断とは別異の資料に基づく別異の認識判断をも主張立証することが許されると解されるから、原告の右非難は失当である。

しかるところ右各回報書(<証拠略>)によれば、前記(1)の照会に対する各税務署よりの回答の内容は別紙6ないし10記載のとおりであると認められる。

(3) 原告は、別紙6ないし10記載の事実が認められるとしても、被告が類似法人として掲げる法人の中には原告と同種の事業を営む法人は一社も存しないと主張する。しかしながら、なるほど別紙6ないし10の事業種目欄の記載を形式的に比照すると原告と全く同一の事業を営んでいる法人は存しないかのごとくであるが、右に記載の法人はいずれも原告の営業種目のうちのひとつ又はそれ以上の数の事業をその営業種目としているのであるから、いずれも原告と同種の事業を営む法人と認めるに支障はないというべきである。

また、原告は、同種法人の選択は推計課税と同様に厳格に行なわれるべき旨を主張するが、令六九条一号が推計課税を定めたものでないことは明らかであるばかりでなく、同種法人の選択が前述のように役員報酬として客観的に相当である額を算定する資料、指標を得るための手段であることに鑑みれば、推計課税と同様の厳格性を要求する必然性はない。

(4) そこで、以上によつて得られた各係争年度ごとの同種の事業を営む法人の事業規模の各項目の平均値と、被告の右に対応する値とを比較すれば、その事業規模はほぼ類似するといいうる。すなわち、各係争年度を通じ売上金額の比較においては類似法人の平均値の方がはるかに大きく、従業員数においては原告の方が大きいのであるが、期末資産合計額、並びに所得金額及び役員報酬額の合計額のいずれにおいてもほぼ近似している。

しかるに、役員報酬額においては、類似法人に比して原告がはるかに高額である。

これを、売上金額と役員報酬額との関連においてグラフに示せば別紙11の1ないし3、12の1、2、13の1、2、14の1、2、15の1、2のとおりとなり、右の事実が明らかとなる。(なお、第二係争年度以降については、前述のとおり、一弘が代表取締役としての職務を実質的に行なつていると認められる点に鑑み、一弘の報酬額と類似法人の代表取締役の報酬とをあわせて比較した。)

(四)  その他の事情

<証拠略>によれば、原告の取締役の役員報酬額は、親子、夫婦の関係にあり同居の親族である与三一、一弘、登茂子の三人の話し合いで決定されていることが認められるのであつて、このような決定の仕方がともすれば恣意に流れる傾きのあることはたやすく推認されるところである。

また別紙6ないし10により明らかなとおり原告は、各係争年度を通じ極めて高い収益をあげていたにもかかわらず、役員賞与を一切支給しておらず、しかも第一係争年度においては利益配当も全く行なつていない。

(五)  以上によれば、当該役員の職務の内容、その法人の収益及び使用人に対する給料の支給状況、類似法人の役員に対する報酬の支給状況等に照らし、原告の与三一(第一係争年度のみ)、一弘(全係争年度)、登茂子(第一係争年度のみ)に対する役員報酬額が不相当に高額であることは明白である。そして、<証拠略>によれば、被告は、右の実質的基準による不相当に高額な部分の金額の算出については類似法人における役員報酬額を基礎に、役員の職務内容等のその余の事情を総合してこれを別紙2<エ>欄記載のとおり算出したものであることが認められるのであるが、これまで判示してきたところに照らせば、右の方法は妥当なものであつて、何ら不当とする点はないといいうる。

そこで、被告が相当であると認定した損金に算入すべき役員報酬額と類似法人における役員報酬額とを比較対照すれば以下のとおりである。

被告が損金に算入した報酬額(別紙2<イ>欄の額)

類似法人における役員報酬額の平均額(一万円未満四捨五入)

(別紙6ないし10参照)

第一係争年度

六三〇万円(与三一)

六三〇万円(一弘)

二七〇万円(登茂子)

四三六万円(代表取締役)

二九九万円(最高報酬の男性取締役)

一五七万円(女性取締役)

第二係争年度

八四〇万円(一弘)

五一六万円(代表取締役)

三三七万円(最高報酬の男性取締役)

第三係争年度

一一三〇万円(一弘)

六一七万円(代表取締役)

四一八万円(最高報酬の男性取締役)

第四係争年度

一二八〇万円(一弘)

八〇八万円(代表取締役)

五三二万円(最高報酬の男性取締役)

第五係争年度

一四八〇万円(一弘)

七九六万円(代表取締役)

五四〇万円(最高報酬の男性取締役)

しかして、類似法人における役員報酬額を基準に前記認定の役員の職務内容等の事情を考慮して、いかに高く原告の役員報酬を算定しても、被告が損金に算入すべき役員報酬額として認めた別紙2<イ>欄記載の額を上回るものとは到底認められない。

原告は、売上高と役員報酬額から貢献度指数と名付けた数値を算定し、これを根拠に被告の否認額が一貫していないと非難するが、役員報酬額が法人の売上額に対する割合のみにより決定されるものではなく、もとより連動すべき要請もないことは当然のことであるから、原告の右主張は理由がない。

三  第一係争年度については、実質的基準により不相当に高額な部分となる金額が形式的基準により不相当に高額な部分となる金額を上回ることは明らかであるから、損金の額に算入されないこととなる額は実質的基準により不相当に高額な部分と認められる金額となる。

四  以上によれば、被告が法三四条一項に基づき別紙2記載のとおり原告の役員報酬額の一部を損金に算入しないとしたことに何ら違法はないというべきである。

よつて原告の本訴請求はいずれも理由がないことに帰するから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 秋元隆男 池田勝之 大澤廣)

別紙1ないし16 <略>

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